満腹なれど満足には至らず。映画「ザ・マジックアワー」佐藤浩市 三谷幸喜 | 忍之閻魔帳

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ザ・マジックアワー
(C) 2008 フジテレビ 東宝
■BD:「ザ・マジックアワー」
■DVD:「ザ・マジックアワー スペシャル・エディション」
■DVD:「ザ・マジックアワー スタンダード・エディション」

「有頂天ホテル」から2年、ファン待望の三谷幸喜監督作品最新作は
架空の街「守加護(スカゴ)」を舞台にしたお得意のコメディである。

映画のような景色が広がる港町、守加護(スカゴ)。
とあるホテルの一室では、街を仕切るギャング団のボス・天塩(西田敏行)の
愛人・マリ(深津絵里)と恋仲になったホテル支配人・備後(妻夫木聡)が
今まさに窓から逃げ出さんとしていた。
タッチの差で天塩の手下に捕まってしまった備後は、命を助ける唯一の条件として、
伝説の殺し屋・デラ富樫(?)を5日以内に探して来るよう命令される。
何の手がかりも持たない備後は途方に暮れ、やがて無名の俳優・村田(佐藤浩市)に
デラ富樫を演じさせる作戦を思いつく。
映画の撮影、主演と聞いて意気揚々と街にやって来る村田だが・・・




ラジオの放送室(ラヂオの時間)→新築の一軒家(みんなの家)
→高級ホテル(THE・有頂天ホテル)と、作品を重ねるごとに
舞台の規模が大きくなっている三谷作品だが、
本作ではついに街ひとつを丸ごと舞台にしている。
掌サイズだったはずの嘘が雪だるま式に膨れ上がっていく
三谷監督お得意の展開で、安心して観ていられる作品ではあるのだが・・・。

映画のような街(守加護)で、映画スターを目指す男(佐藤浩市)が
観客達(西田敏行や寺島進)をいかに上手く騙せるか、というストーリーなので
現実離れした設定や展開を「あり得ない」と突っ込ませず、
「ならでは」へと転化することに成功している。
海外産のコメディ映画でしか許容されなかったような
”はちゃめちゃ”が許されるのは、日本ではまだ三谷幸喜ぐらいのものであろう。
この辺は独壇場と言って良い。

しかし、舞台が大きくなるにつれ、初期の三谷作品が持っていた
手作り感やマニアックさといったものがどんどん薄れているのは気になる。
登場人物ひとりひとりに人生があった「ラヂオの時間」や「みんなの家」に比べると
明らかに「賑やかし」「彩り」として配置された登場人物が増えた。
本作で言えば、綾瀬はるかや戸田恵子や寺島進あたりは
もっと掘り下げても良かったと思う。

主役級の俳優を次々にカメオ出演させたり、
過去の三谷作品に登場したキャラクターがそのままの設定で再登場したりと
サービス精神も満点のはずなのに、何故か今回は心が満たされなかった。
偉大なる初代クロスレビュワー、水野店長の言葉を借りるならば
「満腹にはなったが、満足には至らなかった」のである。

興行収入60億円を突破した「THE・有頂天ホテル」に続く作品ということで、
架空の街をひとつ作り上げてしまうほど莫大な製作費をかけられた本作が
万が一にもコケるわけにはいかない、という制作側の意図も分かる。
分かるが、「やっぱり猫が好き」時代から三谷作品に触れて来たファンとしては、
「ALWAYS 三丁目の夕日」のような「分かり易い大作」を送り出して来たことが
ほんの少し寂しかったりもするのだ。

ザ・マジックアワー
(C) 2008 フジテレビ 東宝
■BD:「ザ・マジックアワー」
■DVD:「ザ・マジックアワー スペシャル・エディション」
■DVD:「ザ・マジックアワー スタンダード・エディション」

不満ばかり書いてしまったが、決して面白くなかったわけではない。
劇中、何度も声を出して笑ったし、
寺島進や伊吹吾郎など、三谷マジックで新たな魅力を開花させた俳優も多い。
中でも佐藤浩市は、これまで積み上げて来たステータスをフイにしてしまうのではと
こちらが心配になるほどのイメチェンぶりで、
来年の映画賞は総なめ確実の大活躍を見せている。
「笑える度」だけで言えば、三谷作品の中でも1番かも知れない。

「キサラギ」や「アフタースクール」などの舞台テイストを濃縮した
作品を期待しなければ、近年これほど笑える映画も少ない。
湿っぽい季節を笑い飛ばすには最適の1本なので、
是非ともデートムービーに組み込んでいただきたい。

最後に余談。
映画のタイトルにもなっている「マジックアワー」とは、
太陽は沈み切っているが、まだ辺りは真っ暗になっていない
ほんの数分間を指す、映画製作者達が使う業界用語のこと。
最も美しい絵が撮れる貴重な数分間という意味なのだそうで、
この言葉を聞いた三谷監督が
「誰の人生にもマジックアワーがあるのでは」と思いつき
このタイトルになったらしい。

さて、あなたの人生の「マジックアワー」は・・・。


■Book:「BRUTUS (ブルータス) 2008年 6/15号」
■Book:「ザ・マジックアワー オフィシャルブック」

映画本編を知るにはオフィシャルブックになるのだろうが、
私としては三谷幸喜その人に迫った「BRUTUS」がお勧め。
立川談志、佐藤浩市、妻夫木聡、深津絵里、椎名林檎、糸井重里、エド・はるみほか。


■DVD:「ラヂオの時間 スタンダード・エディション」
■DVD:「みんなのいえ スタンダード・エディション」
■DVD:「THE 有頂天ホテル スペシャル・エディション」

三谷幸喜監督の過去3作品。


■CD:「ザ・マジックアワー オリジナルサウンドトラック」

高千穂マリ役の深津絵里が劇中で披露する
「I’mForever Blowing Bubbles」も収録したサウンドトラック。
映画全体の音楽を手掛ける荻野清子は
三谷幸喜が脚本・作詞・演出の三役をこなした舞台「オケピ!」で
ピアニストとして参加している。

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  タイトル:ザ・マジックアワー
    配給:東宝
   公開日:2008年6月7日
    監督:三谷幸喜
    出演:佐藤浩市、妻夫木聡、深津絵里、綾瀬はるか、西田敏行、他
 公式サイト:http://www.magic-hour.jp/index.html
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