見た目はソックリ、中身はハリボテ。映画「20世紀少年」 | 忍之閻魔帳

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1969年。
そこは、ケンヂをリーダーとした子供達の秘密基地。
彼等の楽しみは、ノストラダムスよろしく日本の将来を予言すること。
20世紀の終わりに、人類の滅亡を目論む悪の組織が現れる。
細菌兵器を装備した巨大なロボットを操り、
全世界を恐怖のどん底に叩き落とすのだ。
彼等は、好き放題に膨らませた妄想を「よげんの書」として書き残した。

1997年。
大人となったケンヂは、あれほどハマっていたロックを捨て、
父から受け継いだ酒屋をコンビニに商売替えし、
口うるさい母と、愛想のない従業員と共に細々と営んでいた。
ケンヂの背中には、理由も説明せず、突然失踪してしまった
ケンヂの姉キリコの残した赤ん坊カンナもいた。
ある日、”ともだち”を教祖とした謎の教団の登場と共に、
原因不明の失踪事件や怪死事件が相次ぐようになる。
次々に起こる奇怪な事件は、
何故かケンヂ達が昔書いた「よげんの書」の内容と酷似していた。

「YAWARA!」「MONSTER」「PLUTO」など、常に話題作を提供し続ける
人気マンガ家・浦沢直樹の同名ベストセラー・コミックがいよいよ実写映画化。
3部作構成、稀に見る豪華キャスト、製作費は邦画では破格の60億円と
空前のスケールで製作された本作を手掛けるのは「ケイゾク」「トリック」の堤幸彦。
キャストについては、以下の画像を参照(クリックで拡大)。



2008/(C)1999浦沢直樹 スタジオナッツ/小学館(C)2008映画「20世紀少年」製作委員会

【関連記事】映画「20世紀少年」第1章のキャストが判明

最初に、今回の記事は原作を読んでいる人間のものであることを明記しておく。

3部作構成の第1章では、原作でも最初の大きな節目となる2000年12月31日、
いわゆる「血のおおみそか」までが描かれている。
チラシには「原作とは異なったストーリー展開」と書かれているのだが、
少なくとも第1章に関して言えば、ほぼ原作のままに進行する。
浦沢直樹が脚本にも名を連ねていることもあってか、
極端に改悪された箇所はなく、ストーリーの再現度は高い。
「ともだちコンサート」の告知チラシやケンヂの経営するコンビニの店内など
美術や小物へのこだわりも相当なもの。
キャストについても、誰一人として不満はなかった。
今の日本映画界では、おそらくこれ以上は望めまい。
このところ暴走気味の堤幸彦も、さすがにこれだけのビッグプロジェクトで
遊ぶわけにはいかなかったのか、「ケイゾク」「ぼくらの勇気 未満都市」
「ハルモニア」などの初期の作品の手法を多用して無難にまとめ上げている。

気になったのは、見た目のこだわりに反し、
「心」が置き去りになっている箇所が目立ったこと。
唐沢寿明を始めとする1997年組をメインで活躍させなければならないためか、
少年期の扱いがぞんざいになっているのが最大の原因かも知れない。
少年期のエピソードが薄まったせいで、

・被害者の会に参加しなかったケンヂにユキジが失望した理由
・血まみれの男に会ったケンヂが激昂した理由
・本部社員から注意を受けても、ケンヂがカンナを背負ったまま勤務する理由

など、登場人物達を繋ぐ「心」の部分が希薄になってしまっている。
(原作では全て描かれている)
同じことが他にもあちこちで起こっていて

・オッチョがタイで経験したこと
・敷島教授の娘が何故風俗店で働いているのか
・チョーさんが孫のために買ったプレゼントの意味

あたりは全く触れられていない。
敷島ゼミ関連は特に酷く、娘をたぶらかすジゴロはおろか、
とうの教授本人すら登場しないため、教団の計画した巨大ロボットの製作に
敷島ゼミが絡む理由が完全になくなってしまっている。

ストーリーを忠実に追うことと、キャストを原作そっくりに仕上げること。
見た目はそっくりに作り上られているが、薄皮を一枚剥がしてしまえば、
「血のおおみそか」に現れたロボットと同じ、巨大な張籠(はりぼて)なのである。
原作ファンならば、脳内で補完しつつ楽しむことも出来るが
原作未読の方が映画だけで全貌を理解出来るかは甚だ疑問だ。
予備知識のない方は、原作を5巻あたりまで読んでから出掛けることをお勧めしておこう。

不満は多いものの、原作ファンとしては、エンドロール後の第2章予告で登場する
サダキヨ(ユースケ・サンタマリア)や春波夫(古田新太)の映像だけで
胸が躍ってしまった。
蝶野は藤木直人が演じるらしいが、予告編では見つけられなかった。
第2章は、来年1月31日に公開予定。


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  タイトル:本格科学冒険映画 20世紀少年
    配給:東宝
   公開日:2008年8月30日
    監督:堤幸彦
    出演:唐沢寿明、豊川悦司、常磐貴子、香川照之、他
 公式サイト:http://www.20thboys.com/index.html
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