密室劇の新たなる達人現る。映画「キサラギ」小栗旬 小出恵介 | 忍之閻魔帳

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発売中■Blu-ray:「キサラギ プレミアム・エディション」
■DVD:「キサラギ スタンダード・エディション」

2006年の国内劇映画興行収入は
21年振りに邦画の興行収入が洋画を上回る快挙となった。
しかし、邦画の好調を支えているのは
ベストセラー書籍やTVドラマの映画化が中心で
次世代の邦画を担うほどの逸材は
なかなか登場していないのも事実である。
そんな中、2005年に観た「サマータイムマシンブルース」以来
久々に「これは来た!」と胸が躍る作品が登場した。

キサラギバナー

今回紹介する「キサラギ」は、脚本家、戯曲家、イラストレーターという
3つの顔を持つ古沢良太が、劇団「48BLUES」の為に書き下ろした原作を
映画向けに大幅に加筆・改稿し、
「古畑任三郎」「僕の生きる道」「WATER BOYS」などの
ヒットドラマを手掛けた佐藤祐市が映画化した作品である。
ワンシチュエーションドラマが好きだと言う古沢氏が
時間をかけて練り込んだ脚本は文句無しの面白さで、
「2007年度最高のコメディ」と言って間違いなかろう。

【あらすじ】

B級にすら程遠い、C級グラビアアイドルの如月ミキが自殺して1年。
彼女のファンサイトを運営していた「家元」(小栗旬)は、
常連である「オダ・ユージ」(ユースケ・サンタマリア)の勧めで
「如月ミキ1周忌追悼会」を兼ねたオフ会を計画する。
追悼会に集まったのは、
カッコつけでお調子者の「スネーク」(小出恵介)
お菓子作りが趣味の大男「安男」(塚地武雅)
オフ会参加者の最高齢にして無職の「いちご娘」(香川照之)
そして家元とオダ・ユージの5人。
自分こそが誰よりも如月ミキを愛していると自負する彼等は
会の序盤こそ想い出話に花を咲かせていたのだが、
オダ・ユージが突然切り出した

「如月ミキは自殺ではなく、他殺なのでは」

との発言を境に急展開、隠されていた秘密が
次から次へと明るみになっていく。
如月ミキは本当に他殺なのか?それとも・・・


如月ミキの死の真相に迫るミステリーを縦糸に、
芸達者達が繰り広げる小気味良い会話の応酬を横糸に
織り上げられた密室劇は、ジャンル分けが困難なほど
スリルと笑いに満ちた108分に仕上がっている。
剥いても剥いてもまだまだ出て来る
「隠された真実」のマトリョーシュカ構造も上手いが、
追悼会の幹事である家元を演じた小栗旬以下、
5人のキャストが、まるで当て書きでもされたかのように
役にぴったりハマっているのも驚いた。

出演者の履歴を意識したと思われる遊び心が
ふんだんに盛り込まれているのも楽しかった。
家元の職業が実は●●だった、というのは
実写版「●●●●●●」で主人公を演じた小栗旬ならば納得出来るし、
織田裕二に憧れる「オダ・ユージ」を「踊る」シリーズの
スピンオフ企画で主演したユースケに演じさせ、
かの名台詞を吐かせるのもファンならば思わずニヤリとするはずだ。

「ALWAYS 三丁目の夕日」の脚本も手掛けた古沢氏らしい
感動・感涙のエンディングも含めて、
いわゆる「オタク」な人々が抱く突き抜けたファン心理を
これほど上手く映画に落とし込んだ作品は過去に無かったように思う。

一点だけ不満点を挙げるとすれば
伏線の張り方が露骨過ぎる箇所が多いこと。
観客を置いてきぼりにするほどの難解な伏線も困るが
張られた瞬間にあっさり読めてしまうのもつまらないもので、
残念ながら本作の伏線は途中で見えてしまうものが多い。
しかし、最近は難解な物語に拒絶反応を起こす観客が
(特に若年層に)多いらしいので、これぐらい分かり易い方が
万人に楽しめるのかも知れない。

「サマータイムマシンブルース」の時にも感じたのだが、
「知る人ぞ知る作品」として終わらせるには惜しい作品なので、
少しでも興味を持った方は、是非劇場でご覧頂きたい。
私は公開終了までにあと2回は観に行く予定だ。


■DVD:「12人の優しい日本人」

古沢氏が好きな作品として挙げている
三谷幸喜の初期を代表する密室劇。
裁判員制度の開始を意識してか、2005年に舞台で再演された。
映画版はまだ三谷氏が監督業に進出する前の作品なので
現在の三谷テイストとは若干異なるが、これはこれで楽しめる。


■DVD:「笑の大学 スペシャル・エディション」
■DVD:「笑の大学 スタンダード・エディション」

こちらも舞台が原作の三谷幸喜作品。
登場人物は「キサラギ」よりさらに少なく
作家と検閲官の二人だけで展開する密室劇。
稲垣吾郎が予想以上に健闘するも
役所広司との二人芝居はさすがに酷だったか。


■DVD:「サマータイムマシン・ブルース スタンダード・エディション」
■DVD:「サマータイムマシン・ブルース コレクターズ・エディション」
■DVD:「サマータイムマシン・ブルース 2005 舞台版」

【紹介記事】新世代作家の誕生「サマータイムマシンブルース」

以前、当BLOGでも紹介したことのある
傑作”なんちゃって”SF映画。
「キサラギ」鑑賞後の爽快感がとても似ているので挙げてみた。


■CD:「キサラギ オリジナル・サウンド・トラック」

如月ミキこと酒井香奈子が歌う
破壊力抜群のエンディング曲も収録した貴重なサントラ。
今聞いても5人のヲタ芸が脳裏をよぎる。

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  タイトル:キサラギ
    配給:ショウゲート
   公開日:2007年6月16日
    監督:佐藤祐市
    出演:小栗旬、小出恵介、ユースケ・サンタマリア、他
 公式サイト:キサラギバナー
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