大人向けの子供用映画。映画「河童のクゥと夏休み」 | 忍之閻魔帳

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■DVD:「河童のクゥと夏休み コレクターズBOX」
■DVD:「河童のクゥと夏休み 通常版」
■BD:「河童のクゥと夏休み」

5月頃であったか、
「男の子向けの少女マンガ誌」という奇妙なターゲットを想定した
「コミックエール!」なる雑誌が芳文社より創刊された。
今回紹介する「河童のクゥと夏休み」を
「コミックエール!」風の売り文句で説明するなら
「大人向けの子供用映画」である。

【あらすじ】

もうすぐ待ちに待った夏休み。
ある日、小学生の康一は学校帰りの川辺で不思議な石を拾った。
水で洗ってみると、それはどんどん生気を取り戻し
人の言葉を操る不思議な河童の子供となった。
河童は康一によって「クゥ」と名付けられ、康一の家族と共に暮らし始める。
しかし、現代社会に突如として現れた河童を世間が放っておくはずもなく、
クゥの噂はやがて日本中へと波及していく・・・


原作が児童文学ということで、観る前は「となりのトトロ」のような
話かと思っていたのだが、全く違った。
「河童のクゥと夏休み」は、「ドラえもん」や「クレヨンしんちゃん」で
実績を積んで来た原恵一監督の集大成であり、
子供向け劇場用アニメの元祖である
「ドラえもん のび太の恐竜」(1980年公開)に対する
原監督からの回答なのではないか。
後半の展開にSF的な要素が絡んでくるか・こないかの違いこそあれ、
「河童のクゥと夏休み」と「のび太の恐竜」は驚くほどストーリーが似ている。
似ているからパクりだ、という話ではなく、大筋を似せることで
「2007年に私が作るならこうだ」という監督のメッセージを
より強く前面に押し出しているように感じた。

主人公の家庭が野原家と全く同じ家族構成であったり、
劇中に東京タワーが登場したりと、
「クレヨンしんちゃん」で培ったテクニックやアイディアも多用されているが、
「ドラえもん」や「クレヨンしんちゃん」などの作品では決して許されない
血なまぐささや人間の薄汚れた部分もストレートに表現されている。
何の予備知識も持っていなかったので、開始5分ほどで起きる
ある出来事には心底驚いた。

環境問題、いじめ、マスコミの過熱報道・・・
現代社会の抱える問題をいくつも盛り込んでいながら
決して説教臭くなることなく、必要以上に泣かせようともしない。
嬉しいことも哀しいことも、全てがさらさらと流れていく。
せめてハッピーエンドかと言われれば、それも判断が難しい。
「ドラえもん」でも「クレヨンしんちゃん」でもない以上、
物語の結末が必ずしも大団円である必要がないからだろう。
「あー面白かった」という気持ちと同じか、
もしかするとそれ以上の「お土産」を、観客は持って帰らされることになる。
そしてこの「お土産」をどう受け止めるかによって、
評価は大きく割れそうな予感がする。

本作はいたるところで「水」が登場する。
クゥを拾った近所の川であったり、学校のプールであったり、
片田舎の清流であったり、海であったり、大雨であったり、
汗であったり、涙であったり。
本作の真の主役は「水」なのではと思うほど、
どの場面も「水」の表現には相当力が入っている。
河童は水なしでは生きられない。
人もまた、水なしでは生きられないのだ。

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原恵一監督の名を一気に広めた大傑作2本。
当BLOGでも何度も紹介しているので
既にご覧になった方も多いと思うが、まだならば今からでも遅くない。
明日にでもレンタルショップに走るべし。

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  タイトル:河童のクゥと夏休み
    配給:松竹
   公開日:2007年7月28日
    監督:原恵一
    出演:田中直樹、西田尚美、ゴリ(ガレッジセール)、他
 公式サイト:http://www.kappa-coo.com/
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