「少林サッカー」好きは見るべからず。映画「少林少女」柴咲コウ 岡村隆史 | 忍之閻魔帳

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少林少女
(C) 2008「少林少女」製作委員会

かつて私を熱狂させた「少林サッカー」「カンフーハッスル」から3年。
フジテレビが製作した「少林少女」のエグゼクティブプロデューサーには
チャウ・シンチーの名前があった。
本家本元のチェックが入るのなら、もしかして・・・
そんな淡い期待は、残念ながら打ち砕かれてしまった。

祖父の道場を継ぐため、中国で厳しい修行を積んでいた少女、凛(柴咲コウ)が
日本に帰国する日がやって来た。
しかし、期待に胸を膨らませて故郷を訪れた凛が見たものは、
廃墟となった道場と、散り散りになった兄弟子達の姿だった。
凛の師匠であった岩井(江口洋介)までもが、
今では中華料理屋の店主としてひっそりと暮している。
これではいけない、何とか道場を復活させなければ。
凛は、中華屋に勤めるミンミン(キティ・チャン)の仲介で
大学のラクロス部に入部し、まずはそこで少林拳を広めようとするが・・・

「踊る大捜査線」「サマータイムマシンブルース」「UDON」など
数々の話題作を手掛けてきた亀山千広(製作)&本広克行(監督)コンビの最新作。
主演は、この映画のために1年かけてカンフーの練習を積み、
アクションシーンのほとんどを吹き替え無しで演じて見せた柴咲コウ。
共演には仲村トオル、江口洋介、ナインティナインの岡村隆史など。
本家「少林サッカー」からも、ティン・カイマンとラム・ジーチョンが参加している。


売れそうな企画を立ち上げることと
客の呼べそうなキャストを揃えることと
各種メディアを巻き込んだ大規模なプロモーションを仕掛けることにかけては
優秀なフジテレビらしい作りなので、おそらくヒットはすると思う。
しかし、この映画を「少林サッカー」のヒロイン版だと思って観に行くと
痛い目に遭うことだけは確かである。
正直、チャウ・シンチーが関わってこの出来というのが信じられない。

本日(27日)、六本木ヒルズで行われた完成披露試写会で、
本広克行監督は「アンパンマンのような映画」だと言っていた。
正義も愛も友情も全部入っている、子供でも楽しめる映画だと。
しかしこの「全部入っている」ことこそが、結果的には「テーマのつまみ食い」となり
映画を散漫なものにしてしまったような気がする。
「プリティリーグ」「少林サッカー」「カンフーハッスル」「キル・ビル」といった
過去の名作から次々にアイディアを拝借しておきながら、何一つ活かし切れていないのだ。
「プリティリーグ」が描いていた友情や、「少林サッカー」が描いていたスポ根マンガや、
「カンフーハッスル」が描いていたひとりの男の覚醒の物語や、
「キル・ビル」が描いていた強いヒロイン像といったものを
1本の映画にまとめて押し込むには、脚本家の能力が足らなさ過ぎた。

腕のある脚本家ならば、同時に立ち上げた複数のエピソードを
物語後半でひとつの大きな流れとして合流させ、エンドロールに持っていくのだが、
この映画は最後まで各エピソードがバラバラに独立したままだ。
少林拳を広めたい凛が、何故ラクロスをする必要があるのかの説明はなく、
小林拳を練習したラクロスチームも、特別な技を使うことなく
チームワークを身につけることで試合を勝ち進んで行く。
(エンドロールでようやく見せてはくれるが、少林サッカーの丸パクりで新鮮味ゼロ)
仲村トオル率いる悪の集団も、何故凛(柴咲コウ)にそこまで固執するのか
今ひとつ説得力が薄く、ラクロスともほとんど絡まない。
メインディッシュがコレでは、ナイナイ岡村と
「少林サッカー」コンビの3人組が繰り広げる出来の悪いコントもさらに笑えない。

アクションシーンに関しては、柴咲コウは本当に頑張っているし
岡村も水を得た魚のようにキビキビと動いている。
これだけ動ける役者を揃えたのならば、
やけに湿度の高い、煮え切らない青春映画ではなく
シンプルかつ大胆なカンフーアクション映画として作って欲しかった。

亀山千広プロデューサーと本広克行監督は、
作品の「核」を見えなくするほどの装飾過多な演出が
決して良い結果を生まないということを
「UDON」の失敗から学ばなかったのであろうか。
ヒットさせるために何を足せば良いのかではなく
作品の質を高めるために何を捨てなくてはならないのかを
もっと真剣に考えて映画を作って欲しい。

チャウ・シンチーは「この映画は少林拳の心が描かれています」と言っていた。
その言葉が本心なのかどうかまでは、私には分からない。
しかし、これだけは言える。
この映画は、本家がお墨付きを与えた「ものまね映画」でしかない。
パロディにもオマージュにも程遠いこんな映画に
「エグゼクティブプロデューサー」などという適当な形で
名前を連ねて欲しくはなかった。

ちなみに、チャウ・シンチー監督の次回作「ミラクル7号」は6月28日公開予定。
驚くなかれ、何と今回はSFである。



●「ミラクル7号」公式サイトはこちら。


■DVD:「少林サッカー 「少林少女」劇場公開記念 スペシャル・プライス版」
■BD:「カンフーハッスル」

「少林少女」公開を記念して低価格で再発売される本家「少林サッカー」。
1800円払って「少林少女」を観るぐらいなら、
1500円でこのDVDを買ったほうが遥かにお得。
「カンフーハッスル」はBD版が発売中。
私も持っているのだが、ソニーピクチャーズだけあって画像はかなり美しい。

【紹介記事】東宝×フジテレビという化学調味料で素材の味が台無しに「UDON」
【紹介記事】新世代作家の誕生「サマータイムマシンブルース」
【紹介記事】2005年の幕開けは「カンフーハッスル」と共に

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  タイトル:少林少女
    配給:東宝
   公開日:2008年4月26日
    監督:本広克行
    出演:柴咲コウ、仲村トオル、江口洋介、岡村隆史、他
 公式サイト:http://www.shaolingirl.jp/blog/
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