二兎を追う者は一兎をも得ず。映画「スカイ・クロラ」押井守 | 忍之閻魔帳

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2008/(C)森博嗣/「スカイ・クロラ」製作委員会
■BD:「スカイ・クロラ」
■BD:「スカイ・クロラ コレクターズ・エディション」
■DVD:「スカイ・クロラ」

宮崎駿監督の「崖の上のポニョ」が大ヒット中の今年の夏休み。
奇遇なことに、何かにつけて比較される押井守監督からも
「若者に見て欲しい作品」として、この作品が届けられた。
「笑っていいとも!」への出演や雑誌でのインタビューなど
メディアへの露出を嫌って来た押井監督が
そのスタイルを変えてまで勝負に出た「スカイ・クロラ」とは。

そこは、完全な平和が実現した世界。
宗教のためでも覇権のためでもなく、単なる「ショー」としての戦争が続き、
命がけの空中戦には、多数のスポンサーが群がっていた。
その世界では、自らの命を「ショー」のために捧げ、
戦闘機に乗り込む若者達のことを「キルドレ」と呼んでいた。
永遠に思春期を抜け出すことのない彼等が、
淡々と繰り返される戦火の中で見つけたものとは・・・。
原作は、ベストセラー作家・森博嗣の同名人気シリーズ。
監督は「GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊」
「うる星やつら2 ビューティフルドリーマー」の押井守。
主人公カンナミ・ユウイチには「それでもボクはやってない」の加瀬亮、
上官である草薙水素には「バベル」の菊池凛子、同僚役には
「キルビル」の栗山千明、「ベクシル 2077 日本鎖国」の谷原章介など。


若者に見てもらうためには「イノセンス」のような作りではいけない。
観客に媚びることなく、「分かる者だけ付いて来い」と突き放して来たスタンスを、
50歳を過ぎた今になって変えるのは、相当に勇気が要ったことと思う。
押井監督が未だに柔軟な考え方を持った人物であることの証明とも言えよう。

しかし、残念ながら「スカイ・クロラ」の噛み砕き方はアンバランスである。
これでは、今まで押井監督の作品を支持して来た層からは「装飾過多」と嫌われ
新規で獲得したい層からは「意味不明」で切り捨てられる危険がある。
「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序」の庵野秀明監督を始めとするアニメ関係者からは
「今回の押井さんは分かり易い」と好意的に評されることも多いのだが
それはあくまでも過去の押井作品を知っているからの話であり、
単独の作品として見れば、まだまだ説明不足な点は多い。

登場人物の背景以前に、世界についても何の説明もないままに
淡々と進んでいったかと思えば、ふいに思いついたように
観客へのあからさまな救済措置として、非常に説明臭い長台詞が挿入される。
通常のアニメ番組ならば、エンディングの後のおまけコーナーか
セルDVDの特典映像のような「ネタバレ解説」が、本編の真っ最中に挿入されるのである。
仕組みを理解させる代わりに、物語への没入感を削いでしまっては逆効果ではないか。
このような場面が、劇中に最低でも2回はあった。
物語後半で、栗山千明演じる碧が加瀬亮演じるユーイチに向かって
延々と語りかけるシーンがあるのだが、こんな露骨な台詞に感情に乗せろと
言う方が無茶だとすら思えるほどの説明台詞で、2時間近く付き合った挙げ句、
最後の最後で卓袱台をひっくり返されたような気持ちになってしまった。
若者の理解力というものを極端に低く見積もっているのか、
それとも「分かり易くする」ことに慣れていないのかは不明だが、
オーディオコメンタリー的な解説は、あくまでも「おまけ」に止めておいて欲しかった。

声優陣に関しては、オタクを自認している栗山千明はさすがに上手い。
加瀬亮と谷原章介もまずまず。しかし菊池凛子はいただけない。
端役ならまだしも、事実上の主役でこの芝居は酷い。
「Genius Party」も決して上手くはなかったが、アニメの仕事が2回目でこれとは。

お気に入り作品ほど粗が気になる私なので色々と書いてしまったが、
ストーリー自体はかなり好みな上に、空中戦もなかなか迫力があり、
特に音楽に関しては文句無しの仕上がり。
ここはひとつ、生まれ変わった押井監督の涙ぐましい努力を讃えつつ、
「これも新規ファン獲得のため」と、多少の粗は目をつぶることとしよう。


■BD:「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊2.0」
■BD:「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊2.0 Blu-ray BOX」
■DVD:「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊2.0」
■BD:「イノセンス アブソリュート・エディション」
■BD:「機動警察パトレイバー 劇場版」
■BD:「機動警察パトレイバー2 the Movie」
■BD:「人狼 JIN-ROH」
■BD:「アヴァロン」


■Wii:「スカイ・クロラ イノセン・テイセス」
■Book:「キネマ旬報 2008年 8/1号」
■Book:「スカイ・クロラ ナビゲーター」
■Book:「スカイ・クロラ オフィシャルガイド Surface」
■Book:「スカイ・イクリプス」
■CD:「SOUND of The Sky Crawlers」

「キネ旬」はなかなか面白かった。


■BD:「うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー」

原作のイメージを大きく覆しつつも、ファンから敬遠されるどころか
絶賛をもって受け入れられた永遠の名作。
多感な時期に観たということを差し引いても、未だに色褪せない面白さを持っている。
ストーリー、演出、音楽、キャスト、全て文句なし。

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
  タイトル:スカイ・クロラ The Sky Crawlers
    配給:ワーナー
   公開日:2008年8月2日
    監督:押井守
    出演:加瀬亮、菊池凛子、谷原章介、栗山千明、他
 公式サイト:http://sky.crawlers.jp/index.html
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