エピソードを絞った方が良かったのでは。映画「おろち」 | 忍之閻魔帳

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おろち
(c)2008「おろち」製作委員会
■DVD:「おろち」

先日公開されたばかりの「赤んぼ少女」に続き
いよいよ「おろち」が公開される。
楳図かずお作品の中でもずば抜けた人気を誇る「おろち」は
果たしてどのような映画に仕上がっているのか。

人間の生き様を陰から見守る謎の美少女、おろち。
ある大雨の夜、雨宿りのため山奥の屋敷を訪れたおろちは
出演作の全てを大ヒットさせている人気女優、門前葵と出会う。
己の美しさに圧倒的な自信を持つ葵だったが、
最近の彼女は自身の老化に異常なほど怯えていた。
門前家に生まれた女は、
「29歳になると美貌が崩れ始め、見るも無惨な姿に成り果てる」という
呪われた運命を背負っていたのだ。
残された時間が少ないことを知った葵は、血を受け継ぐ双子の娘、
一草と理沙を厳しく育てあげる。
やがて、その一草と理沙にも、「29歳」が近づいていた。

楳図かずおの代表作のひとつ「おろち」がいよいよ実写映画化。
監督は「リング0 バースデイ 」「予言」の鶴田法男。
門前葵と一草の二役を演じるのは、「全然大丈夫」の木村佳乃。
双子の妹、理沙には「シャカリキ!」にも出演中の中越典子。
謎の美少女、おろちには「リアル鬼ごっこ」「神様のパズル」の谷村美月。


本作は、18歳になると美貌が崩れ始める龍神家の悲劇を描いた「姉妹」(1巻収録)と
優秀な姉に劣等感を抱き続けた門前家の妹の復讐劇である「血」(4巻収録)の
2つのエピードをブレンドして作られている。
18歳という設定を29歳に引き上げ、龍神家と門前家を合体、
龍神家の名前は消滅し、全てが門前家で起きた出来事として再構成されている。
葵に女優という設定を追加し、娘に望みを繋ぐという要素を入れたおかげで
同じ楳図かずお作品である「洗礼」のような雰囲気も加わっているのだが、
あれこれ詰め込み過ぎて、消化不良を起こしているように感じた。


■Book:「洗礼 1 文庫版/楳図かずお」
■Book:「洗礼 2 文庫版/楳図かずお」
■Book:「洗礼 3 文個版/楳図かずお」
■Book:「洗礼 4 文個版/楳図かずお」

「姉妹」の恐ろしさは、18歳という若さの頂点を境に悲劇が始まることと、
18歳にもならない姉妹の間で、成熟した大人の女性を上回るほどの
嫉妬や策略が繰り広げられるというところにあったと思うのだが、
29歳を境にしてしまった時点で、その日を迎える恐怖は薄らぎ、
罠を仕掛ける側のしたたかさも年相応に見えてしまう。
「血」に込められた、劣等感を抱き続けた妹の積年の恨みというものも、
母の世代から受け継いだ美貌の崩壊とミックスされたことで
年月が大幅に短縮され、すっかり薄まってしまった。
1+1が2以上になるどころか、1以下になっているのだ。
これぐらいなら、「姉妹」と「洗礼」をミックスするか
「姉妹」「血」「洗礼」のいずれかを単独で映画化した方が良かったのではないか。
(「洗礼」は過去に一度映画化されているが、私的には不満足なので再度映画化希望)

そもそも、妹役が中越典子というのがマズい。
見た目からして悪役然とし過ぎていて、どんでん返しもへったくれもない。
谷村美月のおろちも、雰囲気は上手く掴んでいるものの
人間界を見つめ続けて来たような重みがあと一歩足らなかった。惜しい。

原作を未読の方ならば、美への執念と女同士の嫉妬が渦巻く物語に
そこそこ満足出来ると思う。
原作の熱烈なファンは、どこをどういう風にミックスしたのか
原作との違いを比較する楽しみはあるので、お時間があれば是非劇場で。

ちなみに、休筆宣言をした楳図かずおだが、
現在は映画製作に興味を示しているらしい。
いよいよ「楳図監督」のデビューなのか。
一体何を持って来るつもりなのか、今から楽しみである。


■Book:「おろち 1 /楳図かずお」
■Book:「おろち 2 /楳図かずお」
■Book:「おろち 3 /楳図かずお」
■Book:「おろち 4 /楳図かずお」

ワイド版で再リリースされた「おろち」原作本。全4巻。


■Book:「おろち 楳図かずおの世界」
■Book:「おろち super remix ver./嶽本野ばら」
■CD+DVD:「愛をする人 Orochi's Theme/柴田淳」
■CD:「愛をする人 Orochi's Theme/柴田淳」

「楳図かずおの世界」は映画公開に合わせて発売されたビジュアルブック。
「おろち super remix ver.」は、「おろち」にインスパイアされて書かれた
嶽本野ばらの「鱗姫」を、本家へのオマージュを込めてアレンジしたもの。
「愛をする人」は今回の劇場版の主題歌。
これが歌詞・歌唱ともに映画とマッチしていて素晴らしい仕上がり。
アレンジは鬼束ちひろなどを手掛ける羽毛田丈史。かなりお勧め。

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  タイトル:おろち
    配給:東映
   公開日:2008年9月20日
    監督:鶴田法男
    出演:木村佳乃、中越典子、谷村美月、他
 公式サイト:http://www.orochi-movie.jp/index.html
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