矢野顕子ニューアルバム「akiko」10月22日発売 | 忍之閻魔帳

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ゲームと映画が好きなジジィの雑記帳(不定期)

人生のタイムテーブルを作ってみたとしたら
恋愛にかける時間は、実はそれほど多くない。
なのに、音楽の世界には恋愛の歌ばかりが溢れている。


もうどこの雑誌に掲載されたのかも覚えていないほど
遥か昔のインタビューで、矢野顕子はそうコメントしていた。
私が矢野顕子を好きな理由の大半もそこにある。
矢野顕子という人は、惚れた腫れただけで飯が食おうとする
凡百のシンガーより、もっと大きな意味での愛を歌う人である。

矢野顕子が天才的なピアニストであることは良く知られている。
符割も歌い方も自由奔放のように見えて、その弾き方はまるで教科書のよう。
ジャズなどの、その場のノリで適当にズラす音符でも
64分音符や3連符を交えたような、正確なタイミングでズラしてくる。
ズレているのにズレていない、まるで最初からズラして表記された楽譜を使って
弾いているような几帳面なピアノを聴かせてくれる。
しばしば「矢野顕子の曲は編曲が自由過ぎる」と指摘されることがあるが、
編曲が自由な分、音符は怖いほどに正確である。
どこを自由にして、どこを守らねばならないのかのバランスが絶妙で
その正確さを感じさせないほど自由に歌っている姿こそ、彼女が天才たる所以だ。

そんな矢野顕子が10月22日にニューアルバムを発売する。


■CD:「akiko/矢野顕子」
■CD+DVD:「akiko Complete Box/矢野顕子」
矢野顕子

「アメリカ 家族のいる風景」「コールドマウンテン」
「ウォーク・ザ・ライン 君につづく道」といった映画音楽も手掛け、
グラミー受賞経験も持つT-ボーン・バーネットがプロデュースを担当。
矢野顕子のデビュー作「Japanese Girl」(1976年)を聞いた
バーネットが矢野顕子の大ファンであったことから、トントン拍子に話が進んだらしい。
YouTubeにヤマハがアップした公式の予告編動画があるので、まずはそちらを紹介。



同時発売される「akiko Complete Box」は
全10曲中6曲を英語詞にした英語盤と、特典映像入りDVDの3枚組仕様。
今回、幸運にもサイバーバズよりアルバムを提供していただけることになった。

これは凄い。

もともと、その高い声とは裏腹にどっしりした人ではあったのだが
今度のアルバムは、これまでにない力強さと軽やかさがある。
ジャズ、カントリー、ロックなどのテイストを織り交ぜながら
母でも妻でもない、年齢を重ねたひとりの女性としてのカッコ良さに満ち溢れている。
バーネットのアレンジに合わせてか、今回はピアノの演奏はやや控えめ。
ただしやってる事は相変わらずテクニカルで、簡単に弾いている演奏ほど
和音の中のどの単音にアクセントをもってくるかなど、細かな配慮が見られる。
少ない音符数で最大の効果を狙う、かなり効率の良い演奏で無駄が一切ない。
まるで計算され尽くした坪庭のような
コンパクトかつドラマチックなピアノを聴かせてくれる。

2006年に坂本龍一との離婚が成立して以来、
初めてのオリジナルアルバムのタイトルは「akiko」。
「あんなにも大好きだった人」や「いっしょうけんめい育てた子」に対して
「目にみえるもの みんな変わるし 涙も忘れる
楽しい時をありがとう、どうもありがとう」(M-10「変わるし」より)と
笑って見送り、明日へと目を向けて歩き出すアッコちゃんの足取りの軽さに、
年々捨てられないものが増えて行くジジィは「参りました」と白旗を振るしかない。

掛け値無しに、彼女の作品の中でも3本の指に入る傑作だと思う。
ジャンクミュージックに首まで浸かっている、若い世代の方にも是非。


■CD:「峠のわが家/矢野顕子」
■CD:「LOVE IS HERE/矢野顕子」
■CD:「Piano Nightly/矢野顕子」

悩んで悩んで絞り込んだ、私のフェイバリット作品ベスト3。