有名女優だけ手加減するスケベウィルス。映画「感染列島」 | 忍之閻魔帳

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(C)2009 映画『感染列島』製作委員会

今年の大河ドラマ「天・地・人」の顔を務める妻夫木聡主演の最新作は、
新型ウィルスが引き起こす感染爆発の脅威と、
現場で治療を続け、特効薬の開発に取り組む医療関係者達の姿を描いた
パニック映画「感染列島」。
企画は「ドラゴンヘッド」「252 生存者あり」の下田淳行。
プロデュースは「ドラゴンヘッド」「黄泉がえり」「どろろ」の平野隆。
監督は「MOON CHILD」「フライング☆ラビッツ」の瀬々敬久。
共演には、「武士の一分」の檀れい、藤竜也、佐藤浩市、池脇千鶴など。



ある日、いずみ野市立病院で救命救急医として働く
松岡剛(妻夫木聡)のもとに、ひとりの男性が妻(池脇千鶴)を伴ってやって来た。
風邪と判断した松岡は安静にするように伝えて患者を帰すが、翌日には再び来院。
激しい痙攣と全身からの大量出血で、あっという間に亡くなってしまった。
呆然とする松岡。
しかし、その直後から同様の症状を訴える患者が次々に病院を訪れ始めた。
原因は近くの養鶏場から発生した鳥インフルエンザか、
それとも未知の新型ウィルスなのか。
事態を重く見たWHOから、メディカルオフィサーとして
小林栄子(檀れい)が派遣されて来る。
いずみ野市立病院のスタッフ達は、このウィルスに打ち勝つことが出来るのか。


「ドラゴンヘッド」や「黄泉がえり」のスタッフが集まっていると聞いて
ある程度覚悟してはいたのだが、今回はいつにも増して細部が杜撰で、
細かいことを気にするタイプの方なら、前半で脱落してしまいそうな気すらする。
昨年末に公開された伊藤英明主演の「252 生存者あり」と双璧を成す、
2大「別の意味でパニック映画」と言えよう。
人の死に様や、何が何でも生き残ろうとする執念を真正面から描けないのであれば、
いっそパニック映画には手を出さない方が良いし、
役者の方も、パニック映画に出演すると決めた以上、吐血や苦悶の表情ぐらい
お手の物でなければ、リアリティの欠片も発生しない。
その覚悟がないのなら、いっそオファーは蹴って欲しい。
ネタバレに抵触するが敢えて書く。
この映画をB級たらしめた戦犯は、檀れいと国仲涼子である。


(C)2009 映画『感染列島』製作委員会

骨子の部分は割としっかり作られている。
ウィルス発生当初は、近くの養鶏場で原因不明の大量死が発生したばかりということで、
「鳥インフルエンザなのではないか」と、非難の矛先が養鶏場に集中する。
原因を究明する猶予すら与えず、疑わしき人間を徹底的に追い詰めていく
マスコミの手口や、周囲から放たれる無数の悪意は、時にウィルスよりも恐ろしい。
昨年より話題に上ることも多い新型インフルエンザの存在もちらつかせているので、
物語序盤は「現実にも充分起こり得る恐怖」が上手く描けていたのだが・・・

感染爆発(パンデミック)が発生してからの展開が、呆れるほど雑なのだ。
ウィルスの正体すら掴めず、「空気感染の可能性も」と注意勧告を出しておきながら、
松岡(妻夫木聡)や栄子(檀れい)などの医療関係者達は、
病院から一歩外に出ると、あっさりマスクを外してしまうのである。
街角には目から血を流す感染者達がうろついているというのに
この呑気さは一体どういうことなのか。
おいおい空気感染じゃなかったのかと、観ているこちらがヒヤヒヤする。
始終マスクをしていては映画として成立しないと言うのなら、
まず成立するシチュエーション(マスクをしなくても良い空間)を作るべきであろう。
映画の肝である、ウィルスの特性をあやふやなものにしてしまっては意味が無い。

ウィルス設定で一番許せなかったのが、
このウィルスがスケベ親父並みにターゲットを選り好みしていることである。
以下はネタバレに抵触するため要反転。

エキストラはもちろん、男優陣や脇役クラスの女優達にウィルスが感染した場合、
目や鼻や口や耳から大量の出血が起こり、見るも無惨な死に様となるのだが、
主要キャストの女優陣だけは、絶対に汚くならないのである。
ゾンビと見紛うほどに凄惨な死を遂げるエキストラ達を尻目に、
携帯を握りしめたまま美しく逝く国仲涼子や、
赤い涙がひと筋「ツツーッ」と頬をつたって息を引き取る檀れいを見て、
ウィルスの選り好みの酷さと対応の落差にクラクラしてしまう。
女優側がゴネたのか、演出側が気を遣ったのかは分からないが、
こんないい加減なことをしている時点で、もう真面目に観てはもらえまい。
13歳の若さで汚れ役を一身に背負っていた夏緒は天晴。
大人達に混ざっても存在感は際立っていたので、今後の活躍に期待。


「252 生存者あり」を観た時にも感じたのだが、
物語を転がす前に、もっと設定をしっかりして欲しい。
人の生死がドラマを生むのは、そこにリアリティがあるからではないのか。
とりあえず人が死ねば、涙など簡単に絞り取れると思っているうちは
邦画の大作は今後もゆっくり死んでいくしかない。

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  タイトル:感染列島
    配給:東宝
   公開日:2009年1月17日
    監督:瀬々敬久
    出演:妻夫木聡、檀れい、佐藤浩市、他
 公式サイト:http://kansen-rettou.jp/
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