何もない、贅沢な時間。映画「めがね」小林聡美 もたいまさこ 加瀬亮 | 忍之閻魔帳

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ゲームと映画が好きなジジィの雑記帳(不定期)

めがね
■DVD:「めがね(3枚組)」

観光や買い物目的で旅をするのはもう止めよう。
私がそう考え始めたのは、もう散々遊び尽くした後のことなので、
今が遊びたい盛りの方や、まだまだ遊び足りない方、
一生アクティブな旅を楽しみたい方などには、この映画はピンと来ないかも知れない。
しかし、気持ちをリセットするために
「何もない場所」を求めて旅したことのある方ならきっと分かる。
荻上直子監督の最新作「めがね」は、そんな映画である。

その島は、美しい海と砂浜以外は何もない島だった。
到着に合わせて空港まで迎えに来るはずのスタッフは、30分待っても現れなかった。
宿泊した部屋に風呂はなく、生温いシャワーのみだった。
夜明け前に砂浜に出て、ぼんやりと日の出を待っていると
何人もの島民達がマラソンしながら目の前を横切っていく。
純血種など1匹もいなさそうな野良犬達が堂々とホテルの敷地内を徘徊し、
レストランに行けば、おこぼれを狙う野鳥や野良猫がどこからかやって来た。
昼間から酒をあおり、カードに興じるスタッフ達。
友人宅に寄りたいからと、運転手はあっさりバスの進路を変更し、
島を案内してくれるはずのスタッフは、約束の時間に1時間遅れて現れた。
缶ビールを持って浜辺に腰を下ろし、夕方まで海を眺めた。
日が沈むと、もうそこは満天の星と波音だけの世界。
分単位のズレも許されない「日本時間」が次第に薄れていき、
島での生活が3日目に入った頃には、時間も曜日も気にならなくなっていた。
「めがね」を観ている間の私は、あの時の私と似ていたような気がする。

都会から(束の間)逃げ出したいという欲求は
都会から(完全に)撤退したいという気持ちとイコールではない。
何もない田舎の暮らしに憧れながら、物の溢れた都会の暮らしも捨てきれない。
旅行はしたいが、まとまった休みが取れない。
そんな気持ちを抱いている方なら、「めがね」はきっと心に響く作品だ。

惜しいのは、「かもめ食堂」でも感じた言葉選びの稚拙さと
演出過多な部分がいくつか見受けられたこと。
「何が自由か、知っている。」(キャッチコピー)というなら、
「たそがれる」ことを良しとする考え方そのものが押し付けがましいし
「メルシー体操」もコミカル過ぎてかえって不自然。
もっと振りを地味にするか、いっそただのラジオ体操でも良かったように思う。

キャスト(全員)、景色(与論島)、食べ物(特にロブスター)は文句なし。
音楽(金子隆博)、主題歌(大貫妙子)は最強。
唯一足らないものが監督の力量というのは何とも皮肉ではあるが
恵まれた環境ですくすく育つ、荻上監督の今後に期待したい。


■CD:「めがね オリジナル・サウンドトラック/金子隆博」

大貫妙子の主題歌も収録したサントラCD。名曲揃い。


■DVD:「かもめ食堂」
■CD:「かもめ食堂 オリジナル・サウンドトラック」

現在の小林聡美のスタイルを決定付けた作品。


■DVD:「2クール DVD-BOX」

小林聡美ともたいまさこの二人で送るバラエティ番組。
弁当を差し入れたり、美大でモデルになったりするだけの緩い企画が満載。

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  タイトル:めがね
    配給:日活
   公開日:2007年9月22日
    監督:荻上直子
    出演:小林聡美、もたいまさこ、市川実日子、加瀬亮、光石研
 公式サイト:http://www.megane-movie.com/
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